タフらいと誕生物語【第2章】(3)
本当ですか!(香港のビアレストランにて)
私は、耳を疑った。そして、思わず、今までたくさんのエンジニアから教えてもらった“なぜ出来ないか”の理由を早口にまくし立てた。
彼は、ニコニコしながら、黙って最後まで私の話を聞いていた。そして、私の説明が一通り終わった後、また一言、彼は言った。
『うん、でも多分できると思う』
“まさか!!!”私の胸は高まった。それができれば、人類は、電球というゴミを捨てなくてもよくなるかもしれないのである。LED素子が本来持つ、半永久光るかもしれないという長寿命の特性を、そのまま電球そのものに反映できるのである。
私は、興奮のあまり、少し上ずった声で言った。
『本当ですか?今まで誰もできないとしか言ってくれなかったのですよ。』
彼は落ち着いた声で言った。
『できるはずだよ。検証する必要はあるけど』
『えーっ!マジですか?できたらすごいですよ。やりましょうよ。世界が変わりますよ』
しかし、彼の反応は鈍かった。
『今更、はんだごて握って(開発を)やるのもなー、、、、』
そうである。彼は、不動産賃貸業などで資産を築いて、今は、自由気ままな生活を送っているのである。今回の香港の旅行も、彼の気ままな一人旅の途中であったのである。
しかし、私はこれを聞いて、このまま引き下がりたくはなかった。他でもない天才技術者ができると言っているのだから、できるに違いない。今まで、誰も相手にしてくれなかった夢の商品が実現できるかもしれないのである。
私は、彼が、とてつもなく電気技術が好きな事は知っていた。押せばその『エンジニア』の血が騒ぎ、やりたいと思ってくれるような気がしていた。
『やるだけやってみましょうよ。検証ってどんなのを用意すればいいですか?そんな世紀の発明、検証だけでもやってみましょうよ。用意しますよ。今度また、香港に遊びにきた時に1日だけ私にください。』
彼はついに根負けした。というか、やはり、そもそも電気技術が好きなのである。彼は私に、検証に必要なものを言い残し、別の旅行の目的地に旅立って行った。(のちに私は、彼が言い残して行った内容を理解するのすら時間がかかったのだが、、)
そして、ついにその雪の日がやってくるのである。