タフらいと誕生物語【第1章】(3)
できるはずがない!
私が完成を待っていたのは、LED電球を半永久に光らせることが出来るかもしれない夢の技術であった。
全てのLED電球には、必ず寿命が最初から決められている『電解コンデンサー』という電子部品が使用されている。その部品は、『寿命』が決められている
だけではなく、その寿命は、LED電球自らが発する熱によって、急激に短くなるの
である。
誰もがわかりきった事実ではあるものの、それを使用しないでLED電球を作ることなどは諦めていた。それは、LED電球における基本中の基本『いろはのい』だからである。
そしてそのことによって、本来半永久に光るはずのLEDが、その実力を全く発揮
できないまま、壊れて、捨てられているのである。
過去、私は知っている限りのありとあらゆる技術者に、この電子部品を使わないようにできないのかと聞いて回った。
しかし、その全ての答えは、『NO』であり、ほぼ全員が全く同じ不可能な理由を懇切丁寧に説明してくれた。それほど、エンジニアの世界の中では共通の知識であ
り、まさに『いろはのい』であった。
その中で、唯一、『YES』と答えたのが、目の前にいる、すでに退職して現役を引退してしばらく経っていた北島なのだ。
私は、今までも彼が、たった一人で不可能を可能にしてきた奇跡のような開発をこの目で見てきた。
その彼は、私の話を聞くや、間髪を入れず『出来ると思う』と答えた。
その今までの経験が、私に『もう、やめましょう』の一言を言わせることをためらわせていた。
しかし、改善しない状況と、今まで誰もが『出来るはずがない』と言い切った難易度の高さに、私の心は、半ば折れかけていた。
この検証実験において、最終的な成功の鍵を握る最難関ポイントは、人間の目にはわからない高速な光の点滅(フリッカー)の消滅であり、この、間借りの古ぼけ
た設備では、専門で高価なフリッカー計測器などあるはずもなく、私達は、個人所
有のiPhoneを使ってそれを測っていた。
フリッカーがあると、そのiPhoneの画面に黒い縞々模様が発生するのである。
しかし、その黒い縞々が何度やっても、ある段階から消えないのである。
時計の針は、すでに夜9時を回っている。